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廃語の風景⑩ ― ミゼット/スバル360 [廃語の風景]

長野色115系:撮影;織田哲也.jpg

いま日本では、軽自動車がよく売れています。
原油高が続きガソリン代が高騰したおかげで、性能が良くて燃費のいい軽自動車に人気が集まったせいです。
実際、上の娘が乗っているダイハツ・ムーブは660ccながら、低燃費の割にはふた昔ほど前のリッターカーと同じくらいのパフォーマンスを示し、内装もまあまあの出来になっています。
さらに軽自動車の税金は普通乗用車に比べて格段に安いのが特徴です。自動車税は都道府県が課税しますが、軽自動車税は市区町村が課税することも、その理由のひとつになっています。
最近アメリカの一部の業界が、こうした日本の税制に注目し、TPPを利用して軽自動車税を撤廃するよう求めていますが、これには日本の自動車の歴史を踏まえて反論したいところです。

ダイハツ 『ミゼット(Midget)』 は1957年に生産が開始されたオート三輪で、『Always・三丁目の夕日』 にも見られるように、戦後復興する産業のシンボル的存在とも言うべき車です。
鈴木オートのような中小企業や個人商店が経営を拡大していくにあたって、欠かせない一台だったのがこの車種なのです。
一方、富士重工の 『スバル360』 は1958年に登場し、 量産型軽自動車として初めて大人4人乗りというコンセプトを実現した画期的な車です。
エンジンは空冷2ストローク2気筒356ccと、車のエンジンというよりバイクのそれと言った方がふさわしいシロモノですが、「マイカー」 という言葉を定着させた最初の車種となりました。
実際に大人が4人乗車すると、それはそれは窮屈な車内だし、走行性能も今から思えば極めて貧弱なものだったに違いありません。
しかし、自営業者の夢が前述のミゼットだったとしたら、勤め人の家族が休日に家族でドライブする夢を乗せたのがスバル360だったわけで、その意味でこの2車種は戦後の自動車史というより、世相の歴史そのものを物語る大きな役割を担ってきたと思われます。

1960年代の高度経済成長期を迎えると、やがて1000ccのニッサン 『ブルーバード』 や トヨタ 『コロナ』 などが車社会を支える柱となっていきます。
そうした車種が1500~1600ccに格上げされるようになると、『サニー』 や 『カローラ』 といった1200cc前後の大衆車が新たなファミリー層に定着し、そのようにして日本のモータリゼーションは発達し続けてきたわけです。
その時代においては、すでにミゼットやスバル360は生産されなくなっていました。
しかし日本のクルマの原点を振り返る時、この2車種を除いて語ることはできないという事実に変わりはないと考えてよいのではないでしょうか。

いま我が国のクルマ事情は、「一家に一台」 から 「一人に一台」 という考えが当たり前とも言えるでしょう。
都市部では通勤や買い物といった近場の移動に気楽に利用できる軽自動車が普及し、農村部では 『サンバー』 などの軽トラックが欠かせない存在となっています。
その姿こそ見かけなくなりましたが、『ミゼット』 と 『スバル360』 の残した文化は、きっちり現代にも受け継がれている、そのことに異論ははさめないのではないでしょうか。
「TPPにともなう軽自動車税の撤廃」? ― バカなことを言ってはいけません。それはあまりに、国情というものを無視した悪平等の産物です。
キャデラックがアメリカ車の魂を表しているというのであるならば、日本車の魂の原点は 『ミゼット』 と 『スバル360』 にこそあると言い切って過言ではないはずです。

私たちの国の庶民は小さな国土で小さな家に住み、大きな良いことも大きな悪いこともしないながら、小さな良いことと小さな悪いことを日々重ねて、小さな夢を一歩ずつ実現してきました。
小さいものへの愛情こそが、良くも悪くもこの国の潜在的な姿なのです。特段に愛国の精神など鼓舞しなくとも、小さな幸福の中にじゅうぶんこの国を誇る精神は受け継がれているわけです。
歴史の中の名車は現代の私たちに、そんな大切なことを語りかけてくれているように思えてなりません。
伝統の重みというのはいつだって、そんな身近なところから生まれ出ずるものなのです。

http://www.youtube.com/watch?v=sKHg-JQaLBQ
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