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廃語の風景⑯ ― 戦争ごっこ [廃語の風景]

豊田庫:撮影;織田哲也.jpg

今の子供たちが戦争ごっこに興じているなどという話は、ついぞ聞いたことがありません。
日本は平和を希求する国だから、そんな遊びはしなくてもいい。― そりゃまあ、そうでしょうけれど、別に私だって軍国少年であったわけではなく、戦争はいけないことだという基本理念は幼な心にもちゃんと刻まれていました。
親や祖父母など戦時を生き抜いた人たちがまわりにいたぶん、私たちの世代のほうが体験談を直接聞く機会に恵まれていましたから、「カッコイイでは済まされないことだ」 という思いはむしろ強かっただろうと思います。
それでも、子供たちにとって戦争ごっこは、とても楽しい遊びだったのです。

実は戦争ごっこの95%以上は 「秘密基地の造営」 が目的なのであって、実際に戦闘行為に及ぶ時間はほとんどありませんでした。
その戦闘行為にしても、「敵情視察」 と称して相手方の基地がどうなっているか偵察隊を出したときに、銀玉鉄砲で応酬するか、せいぜい泥玉を爆撃していく程度のことでした。
自分より年長の者が敵方にいて基地造営をリードしているときなど、自ら進んで捕虜になり、ノウハウを少しでも身につけようと 「留学」 したことすらありました。
当時の少年マンガ雑誌には 『ひみつきちを作ろう!』 といった特集がときどき組まれていました。文字通り 『秘密基地の作り方』 といった本さえ発行されていたと記憶します。
基地の造営には知識と経験が必要なもので、腕っぷしではなく戦略に長けた者が大将になります。新しいアイデアを持ち込んだ者はとくに賞賛されるのです。

秘密基地はだいたい、公園の築山で下がトンネルになっているところとか、倉庫の裏側とかに設置されました。
とにかく安全に身を隠せることと、敵の攻撃を跳ね返せるだけの堅固なバリアが第一条件だからです。
そのへんの工場に放置されている段ボール箱をたくさん見つけて持参した者は、いちやく英雄扱いです。
「バールのようなもの」 を調達してきた友人もいて、敵の侵攻を食い止めるための閂(かんぬき)になりました。それを攻撃のための武器として使ったら勝利すること間違いなしなのですが、シャレにならないことはしないお約束なのです。

基地のすぐ近くに砂場などがあると、当然そこは地雷原になります。
何人かが落とし穴の担当となり一生懸命穴掘りをしますが、「ここに地雷があるよ」 と相手にすぐわかってしまうようでは実用の効果はまったくありません。
実際に敵が穴に落ちることなど最初から目論んでいなくて、基地の造営そのものに目的があるわけですから、どれほど完成度の高いトラップを作るか、いわば職人仕事の範疇でした。
だから最後には落とし穴を作った本人が見事に落ちて見せて、自分の腕前を誇るのが常でした。

こうした遊びはもちろん男の子中心ですが、まれに同級生の女子たちも参加したいと申し出てくることがありました。いやという者は誰もいなくて、その日は仲良く共同作戦です。
ある女の子が自宅から、古くなって捨てられたカーテンを持ってきたときは、最高にゴージャスなバリアを張り巡らせることができました。
カーテンに防御された薄暗い基地の中でお菓子など食べていると、戦争ごっこにおままごとがの要素が加わって、なにやらむずがゆい気分になったりもしました。
(せっかくだから 「軍医」 になってお医者さんごっこも取り入れたらよかったという名案は、ずっとあとになって気づいたことでした)

そう、私たちが戦争ごっこに求めたものは、実際の戦争やスポーツのように攻撃して敵に打ち勝つことではなく、「秘密」 の匂いです。
友達と秘密を共有することが楽しかったのであって、戦争ごっこという形をとるのは 「我々ハ追イ詰ツメラレタ状況ニ置カレテイルノダ」 という高揚感を醸(かも)し出す格好の設定だったからです。
秘密の匂いが戦争ごっこには充満していたからこそ、普段あまり仲良くない友達でも、女の子でも、初対面の奴でも、すぐにそれを共有する 「同志」 になれたのではないでしょうか。

『男の隠れ家』 などという記事は、周期的に雑誌に掲載されます。
そんなのを見るたび、「ミンナ今デモ戦争ゴッコノ続キガシタインダナ。秘密基地ヲ造リタクテタマラナインダナ」 と思ってしまいます。
アウトドアでバーベキューをやるといきなり張り切りだすお父さんがいたりしますが、それも同じ手合いでしょう。
男が隠れ家を作りたいのは、そこで悪さをするためでは決してなく、何かと戦っていることに疲れ、身を顰(ひそ)めて生きていたいという願望の小さな発露に他ならないのです。

http://www.youtube.com/watch?v=sylbVjAw-0Y
「誰の胸にもある幼い頃のメモリー So Happy Day」
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