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廃語の風景⑬ ― 仰げば尊し [廃語の風景]

E233系西八・八王子間:撮影;織田哲也.jpg

あるランキング・サイトによると、卒業式ソングの上位には、森山直太郎の 『さくら』 や、ミスチルの 『終わりなき旅』、ゆずの 『栄光の架け橋』 などが上位を占めています。
定番といわれる松任谷由美 『卒業写真』 や海援隊 『贈る言葉』 といったあたりも頑張っています。
EXILE 『道』 や、いきものがかり 『YELL』 といった曲も、この季節の風物詩としてランク入りしているようです。
私の時代の卒業式に定番の歌といえば、なんといっても 『仰げば尊し』 なのですが、同じサイトのランキングでは85位という位置に甘んじているようです。

2008年に 『少年サンデー』 誌での連載を終えた 『金色のガッシュ』 最終回近くに、この 『仰げば尊し』 の全歌詞が、主人公の心理を物語る重要な要素として登場しました。
作者の雷句誠氏はのちにご自身のブログで、「読者から、あの 『仰げば尊し』 とはどんな歌ですか、という質問がたくさんきて驚いた」 と書いておられたのが印象的です。
まずは、その歌詞をご覧ください。

『仰げば尊し』 (文部省唱歌)

一、
仰げば尊し、わが師の恩
教えの庭にも、はや幾年(いくとせ)
おもえばいと疾(と)し、この年月(としつき)
今こそわかれめ、いざさらば

二、
互いにむつみし、日ごろの恩
わかるる後にも、やよわするな
身をたて名をあげ、やよはげめよ
今こそわかれめ、いざさらば

三、
朝夕なれにし、まなびの窓
ほたるのともし火、つむ白雪
わするるまぞなき、ゆく年月(としつき)
今こそわかれめ、いざさらば

実はこの歌には、いろいろな問題があるにはあったのです。
第一に、「わが師の恩」 などというものを文部省唱歌として押し付けるのはいかがか、という論点がありました。旧時代の教育ではともかく、新しい民主主義教育には相応しくない、という話です。
また、「身をたて名をあげ」 という部分にも、立身出世至上主義の雰囲気が感じられ、一庶民としての幸福に水を差すのかといった主張も聞いたことがあります。
全体に文語調であることも問題のひとつでした。たしかに 「今こそわかれめ」 という部分に 「係り結びの法則」 が効いているくらいですから、口語の常識とはニュアンスの違う歌詞であることは間違いありません。

だけど私は思うのですが、この歌詞って、そんなに時代とズレているものなのでしょうか。

たとえばの話ですが、卒業式の一場面を思い浮かべてください。
教師は教師で 「俺が面倒見てやらなければ、お前たちはロクな人間になっていなかったぞ」 といった自負があり、生徒は生徒で 「オメーラはウザかったが、今日からはせいせいするぜ」 という最後のツッパリがあったとします。
それらは互いに交わっていないかといえばそうでもなく、人生の節目の卒業式という舞台を共有することで、案外最後の時間を楽しんでいるのかもしれません。
実際に 「超問題児」 とされてきた生徒から、「卒業式が終わって最初に握手しにいったのが、俺のことをいちばん叱った教師だった」 という発言を聞いたことがあります。
それを想うと、いい加減ウソだと分かっていながら、意識の断層面に最後の一輪の花を飾るとしたら、私はこの 『仰げば尊し』 がぴったりくるのではないかと、今も考えているのです。

いや正直に申すなら、今この齢になってはじめて、件の歌詞の意義がわかったような気がします。意義というより、妙な存在感とでも言った方が適当かもしれません。
違う世代との断層を実感することろから、単なるわがままでない自己の形成がはじまる。
それを象徴する歌が卒業式から消えていくのは、淋しいと言うより、何をかいわんやと怒りにも似た気持ちになってしまうのです。いい齢したおじさんの独り言としてはね。

http://www.youtube.com/watch?v=qOw-tVhJjw8
今日は珍しく、ブログの内容と100%リンクした歌です。どうぞ。

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