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色いろいろ③ ― 青 [諸々の特集]

115系・八王子駅:撮影;織田哲也.jpg

文化の流れは川の流れに例えられます。
シルクロードの東の最下流、河口の部分に日本という国があり、あらゆる古代文化が堆積物となってそこに錨をおろしています。
正倉院の宝物 『紺瑠璃杯(こんるりのつき)』 は、ササン朝ペルシアのガラス造形を施したワイングラス様の杯で、コバルトブルーの意匠が鮮やかな一品です。
歴史の教科書でご覧になった方も多いでしょう。
私に 「美しい」 という言葉の意味を初めて感じさせてくれた工芸品が、この 『紺瑠璃杯』 であり、興味の外にあった美術というものに目を向けるきっかけを作ってくれたのでした。

「青」 は空の色、海の色、そして平和の色であり、「知性・冷静・堅実」 などの象徴です。
同時に、blue には 「気の滅入った、憂鬱な、悲観的な、血の気のひいた」 という意味もあり、音楽で言えばブルースの語源となっています。
そのために、精神を開放させたり落ち着かせたりする 「青」 がある一方で、人を不安に陥れる 「青」 もあるといった、両極の効果を併せ持つ 「神秘の色」 となるわけです。
青色が五感に働きかける作用も極端で、分かりやすい例を挙げれば、澄み切った空や海などの青い風景は見たくても、青い食べ物が目の前に出されたら食欲はさっぱり湧かないでしょう。

古代ローマの博物学者プリニウスは、鉱石ラピスラズリを 「星のきらめく天空の破片」 と表現しました。
青い色は、現実世界の存在というより、高い精神性を持った存在にこそ似合う色と言うべきであるかもしれません。

パブロ・ピカソに 『青の時代』 があったのはよく知られています。
ピカソが20代前半の頃で、青色系の絵の具をこれでもかと使った沈痛な作風が目を引きます。
(ぜひ 「ピカソ/青の時代」 で検索してみてください)
初めて美術館でこの頃の作品の前に立った時、私は何度も前のめりによろついてしまいました。
ピカソの代名詞とも言えるキュビズムが 「びっくり箱」 的な世界であるなら、青の時代は 「パンドラの箱」 的な世界と言えるでしょう。
この時代の作品の前では、あるとあらゆる絶望とほんのわずかに残された希望との深淵を、不意に覗き込まされるような錯覚に襲われてしまいます。

ピカソの 『青の時代』 はまさに、計り知れない天賦の才が、体の中で熱くどろどろとかきまわされている状態なのでしょう。
のちに花開くべき狂気の 「蛹(さなぎ)」 と対峙しているような、あまりにも不安定な精神に、この 『青の時代』 の作品は私を引きずり込んでいってしまうのです。

本来は精神を鎮静化させる作用があるはずの 「青」 なのに、どうして私はこの色にこんなにも不安と動悸を感じてしまうのか。
『紺瑠璃杯』 と 『青の時代』 のピカソは、私にとって大きなトラウマとなっています。
性根の腐った女に急所を掴まれた男のように、それらには恨みと憎しみと底知れない愛を、どこまでも引き摺って行かなければならない運命のような気がして、それこそ blue な気分に襲われてしまうのです。
まあ、顔つきは案外、そう深刻でないのかも知れないですけれど。

http://www.youtube.com/watch?v=JSuNImVHWlY
たまにはこんなブルースも…



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