SSブログ

色いろいろ⑤ ― 緑 [諸々の特集]

八王子みなみ野:撮影;織田哲也.jpg

通っていた幼稚園での話。
教室の天井に万国旗が吊るされ、「好きな旗の絵を描きましょう」 という課題が出たとき、私は迷わずブラジルの国旗を選びました。
選んだ理由は、何よりもその色が綺麗に見えたからです。
緑のクレヨンがどんどん減っていくのを、今でも鮮明に思い出すことができます。
でもこれ、半世紀以上も昔のことなのですねえ…。

目が疲れたときは緑を見ると良い、とよく言われます。
視神経にとってどういった効果があるのか私は知りませんが、散歩などして自然の緑を見ると心身がリラックスするのは事実です。
緑は 「生命力」 の象徴であると同時に、「平和」 や 「慰安」 の色でもあります。「落ち着き」 を感じさせてくれる点で、緑の右に出る色はないでしょう。
ビリヤード台や麻雀卓が緑なのは、冷静に勝負ができるためと指摘する説もありますが、どうも眉唾くさい気がします。
また、「未熟さ」 も表し、英語で a green boy は 「青二才」 という意味です。
a green eye は 「嫉妬のまなざし」 を表しますが、これは瞳の色がダークブラウンの日本人には理解しにくい感覚かもしれません。私たちが 「嫉妬のまなざし」 をイメージするのは dark red や black に近いものでしょう。

「みどり」 はもちろん 「緑」 なのですが、ほかに 「翠」 「碧」 も 「みどり」 を表します。
翠は 「翡翠(ひすい)」 、碧は 「碧玉(へきぎょく)」 に使われる字で、これらはどちらも宝石の種類です。
鉱物として 「みどり」 を見ると、植物の 「緑」 とは異なり、あまり生命力を感じさせてはくれません。むしろ死をイメージさせるほうに近い色具合です。
このことと関係あるのでしょうが、映画に出てくる毒物が緑色の液体だったり、ホラーの化け物が緑色の血を流していたりすることもあります。

尾崎翠(おさき・みどり)という小説家をご存知でしょうか。
大正後期から昭和初期にかけて作品を発表した女性作家で、活躍した期間は短かったのですが、印象深い作品を残しています。
代表作 『第七官界彷徨』 は、主人公の若い女性が女中部屋に住んで家事を手伝いながら、その家の家族と交流するという筋立てです。
ところがこの家庭、とにかく奇妙な家族の奇妙な行動に溢れ返っています。
不思議な気分にまみれた主人公はその思いを、人間の第六感を超越した 「第七官界」 で詩を書き続ける、という行為に昇華させていきます。
主人公のこの行動を作者の言葉で表現するなら、「二つ以上の感覚がかさなつてよびおこす哀感」 によるものということになります。

尾崎翠は、文学少女がそのまま作家になった、稀有な例であると思います。
「ブンガクショウジョ・ミドリ」 の世界には、「生命力」 も 「慰安」 もある一方で、「未熟さ」 も 「死」 のイメージも同居しています。
そればかりか 「毒」 の要素も色濃く漂っています。
「みどり」 に代表される要素が混沌とする中に、「ブンガクショウジョ」 という奇妙な生き物特有の、どろどろしたエロスが芳香を放つ。
そう考えると頭がクラクラして、私自身が 「第七官界」 に逃げ込んでしまいたい気分になってきます。

そしてもう一度読み返したい本が、また一冊増えてしまったのです。

http://www.youtube.com/watch?v=2z2CmrVsc2E
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。