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色いろいろ⑥ ― 黒 [諸々の特集]

京王9000系・多摩境:撮影;織田哲也.jpg

1980年代初頭のモードはモノトーンが中心でした。
コム・デ・ギャルソンに代表される黒を基調としたファッションが流行し、「カラス族」 と呼ばれる若者が原宿や青山の街を闊歩していました。
そんな頃、同窓会のために大阪に帰ったとき、黒ずくめのいでたちで出席すると 「誰かの葬式か?」 と言われて、ずいぶんがっかりしたことがあります。

「黒」 は彩度・明度とも最も低い色で、「白」 の補色となっています。
自己主張が強く、実際よりも重厚感を引き立たせるので、威厳や高級感を醸し出す色です。
反面、弱さを隠して強く見せる場合にも使われ、虚構のイメージもなくはありません。
暗闇や絶望、悪、死、恐怖、孤独、沈黙といったマイナーな感情の象徴になりやすく、その意味でも白の対抗色と言えるでしょう。

ジェラール・ド・ネルヴァルの 『オーレリア、あるいは夢と現実』 を読んだのは高校3年の2学期、たしか中間テストの直前だったと思います。
この頃の私は半ば浪人生活を覚悟していて、テストの直前になると無性に余計な本を読みたくなる病に侵されておりました。
ネルヴァルの作品は 「幻想文学」 というジャンルに括(くく)られ、夢と現実との境界を行ったり来たりする作風です。
オーレリアという女性に叶わぬ恋をした男は、彼女が死ぬことで自分のものになると考えます。
現実に彼女を殺すのではなく、主人公は夢想の中で 「彼女は死んだ」 と思い込むという手段に訴えます。
しかしそこには満足感などなく、残された自分がこのあと長い時間を孤独に生き続けなければならないことに気づきます。
それもまた夢想でしかないのですが、夢想が現実を凌駕(りょうが)し、「いまや死なねばならないのは私だった。望みもなく死ぬのは私なのだ」 との言葉を残して主人公はこの世を去る、というストーリーです。
現実の作者も神秘主義から錬金術への傾倒をたどり、精神の平衡を欠いて、薄汚れたパリの片隅で首を吊って生涯を閉じています。

このネルヴァルの 『幻想詩集』 という作品に、「黒い太陽」 というモチーフがあります。
夢想の世界を 「第二の生」 と考える作者にとって、「黒い太陽」 は 「死と再生」 の象徴とされています。
高校生の頃の私には、それが 「死」 の象徴であることは理解できても、なぜ 「再生」 の象徴となり得るのか納得がいきませんでした。
せいぜい 「死こそが第二の生である」 と考える (なんと仏教的な!) ことによって、そこに 「再生」 の意味があるのだと思いつくのがやっとでした。

いま 「黒い太陽」 と聞くと、多少は違った発想ができるでしょう。
仮に、現実に天空に輝くお日様を 「白い太陽」 と呼ぶことにすると、この 「白い太陽」 の生み出すものは何といっても 「光」 です。
この世のすべてのものは 「白い太陽」 の光を受けて可視化されます。また光あるところには熱が発生し、生命も育ちます。
ところが地球上で考えるとわかりにくいのですが、例えば月では、太陽光のあたる地表温度は110℃ですが、これが月食時に地球の影が投影されるとマイナス110℃まで一気に下がると言われています。
そこは暗黒であり、死の世界と言えるでしょう。
何のことはない、「白い太陽」 はその光ゆえに、影を生み出す根源とも言えるわけです。

この影、暗黒の部分に光をあてるのが 「黒い太陽」 なのではないか。
影の部分に描かれた普段は可視化されていない文字や図柄を、ちょうどブラックライトを照射された蛍光体のように浮かび上がらせるのが、「黒い太陽」 の 「黒い光」 なのではないか。
そう考えると、「黒い太陽」 が 「再生」 の象徴であることも納得がいくのです。
闇に隠れて生きるのは何も妖怪や魔王だけではなく、現実に生きる人の心の一部、それもけっこう重要な部分がそこに息づいていると思えるからです。

このような発想を持ってしまうのも、今まで生きてきたなかで、自分の心の暗黒部分にたくさんの文字や図柄を描いてしまったからに他なりません。
醜い大人には 「白い太陽」 だけではなく、「黒い太陽」 が必要なのです。

そして 「黒」 は決して 「白」 の対抗色などではなく、「黒」 と 「白」 は永遠に向かい合わない運命を背負った一卵性双生児のようなものかもしれません。

http://www.youtube.com/watch?v=FKJPmOh74Xg
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