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夏(7・8月)の季語から [日々雑感]

215系・大月駅にて:撮影;織田哲也.jpg

閑(しず)かさや 岩にしみ入る 蝉の声 (松尾芭蕉)
やれ打つな 蠅が手をすり 足をする (小林一茶)
たたかれて 昼の蚊をはく 木魚かな (夏目漱石)

夏には虫がつきものです。
冒頭に挙げた3人の著名な俳人も、小さな生命のふとした仕草に、句を通じて微笑ましい愛情を向けていることがわかります。
漱石の句は、昼下がりのお寺でお坊さんが木魚をたたきだした。すると暑さを避けて木魚の中に潜んでいた蚊が驚いて飛び出したという情景を詠んだものであり、昼の蚊を木魚が「はく」という擬人法がとてもユーモラスな味わいを教えてくれます。

夏の虫では、「兜虫」「玉虫」「髪切虫」といったあたりが7月の、「蝉時雨(せみしぐれ)」「蜩(ひぐらし)」「法師蝉(ほうしぜみ=ツクツクボウシ)」「赤蜻蛉(あかとんぼ)」などが8月の季語に分けられています。
「蝉時雨」は大勢の蝉が一斉に鳴く様子を表した言葉。もともと「時雨」とは、秋から冬にかけて強い雨が一時的に降ったりやんだりする現象を表した言葉ですが、その激しい音と併せて「蝉」を冠することで、夏の代表的な季語となっています。

汗を吹く 茶屋の松風 蝉時雨 (正岡子規)
秋風に ふえてはへるや 法師蝉 (高浜虚子)

夏は祭の季節でもあります。
盂蘭盆(うらぼん)や七夕にちなんだ行事であることが多い一方、農村部では農事暦に由来するもの、都市部では疫病封じに由来するものなど、その意味合いは多種多様です。
7月には「祇園祭」「野馬追祭」と並んで、「朝顔市」「虫送り」「四万六千日(しまんろくせんにち)」がエントリーされています。
「四万六千日」というのは、浅草寺のほおずき市の日に詣でると、その1日の御利益が4万6千日分に値するとの言われからきています。
8月の祭は、「ねぷた」「花笠」「竿灯祭」に「天の川」「星祭」「盆」「大文字」「送り火」「走馬灯」などがあわさって、盛りの季節の背中を見送る風情にも溢れています。

ゆくもまた かへるも 祇園囃子(ぎおんばやし)の中 (橋本多佳子)
燃えさかり 筆太となる 大文字 (山口誓子)
走馬灯 みたりがおもひ めぐりけり (久保田万太郎)

旬の食べ物に目を向けると、「赤魚」「あわび」「うなぎ」「かんぱち」「すずき」「車えび」「蛸」「どじょう」「うに」など、寿司ネタになる魚介類の多いことに驚かされます。
意外なことに「鮨(すし)」が夏の季語として歳時記には載っています。
この季節、生ものは腐りやすいのになぜだろうと調べてみると、これは琵琶湖周辺で有名な「鮒鮨(ふなずし)」を表していることを知りました。
「鮨」の語源は「酢」。塩漬けにした鮒(ふな)に米飯をつめ、夏の暑さを利用して米の発酵で酸味を加える「なれずし」は、生鮮食品の保存法の原点ともいえる技術です。
意外、という点では、「甘酒」が夏の季語ということも引けをとりません。
米麹を発酵させて作る甘酒は、アミノ酸と天然吸収ビタミンを多く含むので、夏バテ対策の栄養ドリンクとして効果があります。事実、江戸時代には、天秤棒を担いで甘酒を売り歩く商売があったということですから、それが庶民生活に浸透していたと想像することは困難ではありません。
日本の発酵文化の奥深さを、歳時記をめくりながらあらためて認識させられます。

鮒鮨や 彦根の城に 雲かかる (与謝蕪村)

吉田兼好師は『徒然草』のなかで、「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる(第五十五段)」と著しています。
言い換えれば、「冬の寒さは何とでもやりすごせるが、夏の暮らし向きには心配りが必要だ」ということになります。
そんな生活の工夫は、「冷奴」「心太(ところてん)」など食にまつわることから、「打ち水」「夏座敷」「日傘」「浴衣」といった衣・住のうえでの季語にも表されています。
「風鈴」「噴水」「花火」「納涼船」「行水」など、今で言うレジャーに関わる語も含まれていますから、夏の過ごしようが庶民の生活にとっていかに重大なテーマだったかを伺い知ることができます。

浴衣着て 少女の乳房 高からず (高浜虚子)
風鈴の 荷に川風や 橋の上 (水原秋櫻子)
水打てば 御城下町の にほひかな (芥川龍之介)

遠雷が次第に近づき、今にも涼しげに夕立が来るかと思えばさして降らず、
その一方で突然のゲリラ豪雨に、脆弱な雨水対策が浮き彫りとなる…。
どこか歪んだ都会暮らし。アスファルトから立ち上る陽炎を、お天道様はどのようにご覧になっていることやら、思いを馳せながらよろめき歩くも、今年の夏はまだまだ続いていきます。

停車場に 雷を怖るる 夜の人 (河東碧梧桐)
夏痩は 野に伏し山に 寐(ね)る身哉 (正岡子規)


夕立を 祈リ佇(たたず)む 野の仏
送り火の 名残りの風や 小雨ふる
街の灯火(あかり) なぜに生き急(せ)く 夜の蝉

http://www.youtube.com/watch?v=axsoLohidCs
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Jovita

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by Jovita (2023-10-08 05:51) 

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